希少遺伝疾患患者の診断を支援する表現型ベースの
少数ショット学習
「SHEPHERD」という少数ショット学習を用いた深層学習モデルが、希少疾患の診断を支援し、原因遺伝子の特定や類似患者の検索、新規希少疾患の特徴付けに有効であることを示した論文です。
Few shot learning for phenotype-driven diagnosis of patients with rare genetic diseases
要 旨
米国には7,000以上の希少疾患が存在し、その中には3,500人以下の患者しかいない疾患もあります。こうした疾患に対する臨床医の経験は限られており、臨床的な症状も多様であるため、現在診断を求める人々の約70%が未診断のままです。深層学習は一般的な疾患の診断支援に成功を収めていますが、従来の手法では疾患ごとに数千人の診断患者を含むラベル付きデータセットが必要です。本研究では、SHEPHERDという、少数ショット学習(few-shot learning)による多面的な希少疾患診断手法を提案します。SHEPHERDは、希少疾患に関する情報を統合した生物医学知識グラフ上で深層学習を行い、表現型に基づいた診断を実施します。一度学習されると、SHEPHERDは実際の患者に関する臨床的な洞察を提供できることが確認されました。本研究では、未診断疾患ネットワーク(Undiagnosed Diseases Network)の465名の患者(299疾患に相当、79%の遺伝子および83%の疾患が1人の患者にしか見られない)を対象にSHEPHERDの評価を行いました。SHEPHERDは、以下の診断に関する複数の側面で優れた性能を示しました。
•原因遺伝子の特定(原因遺伝子の予測ランキングは平均3.56位)
•「自分と似た患者」の検索(同じ原因遺伝子や疾患を持つ患者の検索)
•新規疾患の解釈可能な特徴付け
さらに、MyGene2(146名)およびDeciphering Developmental Disorders Study(1,431名)の2つの実世界の患者コホートを用いてSHEPHERDを検証しました。その結果、SHEPHERDは深層学習を用いた希少疾患診断の加速に貢献する可能性があることが示されました。本研究の成果は、極めて少数のラベルしかない医療データセットに対して深層学習を適用する際の新たな可能性を示唆しています。
外科手術計画における多次元的な意思決定を支援する、解釈可能な個別化AI推薦システム
複数の意思決定要素(効果・リスク・コスト・患者希望など)を統合的に考慮しながら、解釈可能な個別化外科手術推奨を実現するAIシステム(MUDI)の有用性を示した論文です。
Interpretable personalized surgical recommendation with joint consideration of multiple decisional dimensions
要 旨
生命を脅かす心室性不整脈を近未来(数日以内)に正確に予測できれば、突然心停止や突然死を防ぐための予防的介入が可能になります。単一誘導のホルター心電図にディープラーニングを適用することで、持続性心室頻拍(VT)発症リスクが高まっている個人を特定できる可能性があります。
方 法
手術計画は非常に複雑かつ個別化されたプロセスであり、医師は「手術効果」「リスク」「コスト」「患者の状態や希望」といった複数の要素を総合的に判断する必要があります。こうした課題に対し、本研究ではMulti-Dimensional Recommendation(MUDI)と呼ばれるデータ駆動型・解釈可能な知能システムを開発しました。MUDIは、患者側・医師側の両方に寄り添い、複数の意思決定要素を同時に考慮した個別化された手術推奨を実現します。本研究では、生活の質に大きな影響を及ぼす一般的な女性疾患「骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse)」にMUDIを適用し、一流の泌尿婦人科専門医に匹敵する高い診断・推奨精度を達成しました。さらに、推奨プロセスが透明でわかりやすいため、医師と患者間のコミュニケーションを促進し、ユーザーはMUDIによる推奨を受け入れる傾向を示し、より高い精度で意思決定できることが確認されました。この成果は、MUDIが他の医療領域においても同様の複雑な意思決定支援に活用できる可能性を示しています。