単一誘導ホルター心電図にAIを応用した
持続性心室性不整脈の近未来予測
ホルター心電図の動的特徴をAIで解析し、持続性心室頻拍の発症直前リスク予測を実現可能としたことを示した論文です。
Near-term prediction of sustained ventricular arrhythmias applying artificial intelligence to single-lead ambulatory electrocardiogram
背景と目的
生命を脅かす心室性不整脈を近未来(数日以内)に正確に予測できれば、突然心停止や突然死を防ぐための予防的介入が可能になります。単一誘導のホルター心電図にディープラーニングを適用することで、持続性心室頻拍(VT)発症リスクが高まっている個人を特定できる可能性があります。
方 法
この後ろ向き研究では、6か国から収集された247,254件の14日間ホルター心電図記録を解析しました。最初の24時間のデータを用いて、続く13日間に持続性VTが発生する可能性のある患者をディープラーニングモデルで予測しました。開発データセットは183,177件、内部検証データセットは43,580件、外部検証データセットは20,497件で構成されています。また、Saliency mapping を用いて、モデルのリスク予測に影響を与える特徴を可視化しました。
結 果
全記録のうち1,104件(0.5%)で持続性心室性不整脈が認められました。内部検証と外部検証の両方で、モデルはそれぞれAUROC 0.957(95%CI 0.943–0.971)、**AUROC 0.948(95%CI 0.926–0.967)**を達成しました。特異度を97.0%に固定した場合、感度は内部で70.6%、外部で66.1%に達しました。さらに、180拍/分以上の高速持続性VTに対しては、内部80.7%、外部81.1%の精度で発症予測に成功し、心室細動(VF)に移行したVTの90%も正確に予測できました。Saliency maps解析では、PVC負荷や早期脱分極タイミングがVTリスクの重要な予測因子であることが示唆されました。
結 論
単一誘導ホルター心電図とディープラーニングを組み合わせた新たなモデルは、近未来の心室性不整脈リスクを高精度で特定可能であることが示されました。また、早期脱分極パターンが心室性不整脈発症の潜在的決定因子である可能性も浮かび上がりました。
中医学における診断と治療提案に対する
大規模言語モデルの有用性評価
大規模言語モデル(AMIE)が臨床医の鑑別診断の精度と包括性を向上させる可能性を示した論文です。
Evaluating the role of large language models in traditional Chinese medicine diagnosis and treatment recommendations
要 旨
デジタルヘルス技術は、世界における医療格差の是正に大きな可能性を秘めています。なかでも、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、伝統中国医学(TCM)をはじめとする文化的に特有な医療へのアクセスを改善する新たな手段として、注目を集めています。
本研究では、実際の鍼治療症例を用いて、一般公開されている7種類のLLMがどの程度、診断や治療の提案を行えるかを検証しました。比較対象として、3名の中医学の臨床専門家(鍼灸医)の回答も収集され、LLMの応答内容は、西洋医学の診断、中医学の診断、経穴(ツボ)の選定、鍼の刺入技術、そして漢方薬の処方という5つの観点から評価されました。評価には、中国、韓国、アメリカから参加した28名の中医学専門家が携わり、多言語対応のアンケートを通じて行われました。
その結果、LLMは西洋医学の診断においては鍼灸医と同等の精度を示し、中医学特有の診断や経穴の選択においても、GPT-4o、Qwen 2.5 Max、Doubao 1.5 Proといったモデルが、専門家の評価と高い一致を見せました。一方で、中医学に特化した他のタスクでは、モデルごとの性能に差が見られました。
この研究は、医療に特化していない汎用型のLLMであっても、文化的背景を理解しながら医療判断を支援できる可能性を示しています。とりわけ、中医学のような伝統的医療へのアクセスにおいて、こうしたAI技術が障壁を下げる有力な手段となることを示唆しています。