AIによるマルチモーダルデータを活用した
認知症の鑑別診断

人口統計、個人および家族の病歴、薬物使用、神経心理学的評価、機能的評価、マルチモーダル神経画像など、多岐にわたるデータを統合し、AIモデルを活用して認知症の原因を特定し、高精度で分類・診断を行う手法を示した論文です。

AI-based differential diagnosis of dementia etiologies on multimodal data

https://doi.org/10.1038/s41591-024-03118-z

介護

要 旨

認知症の鑑別診断は、異なる病因間で症状が重複するため神経学において依然として課題となっています。しかし、早期かつ個別化された治療戦略を策定するためには、正確な診断が不可欠です。本研究では、人工知能(AI)モデルを活用し、認知症の原因を特定する手法を提案します。本モデルは、人口統計データ、個人および家族の病歴、薬剤使用状況、神経心理学的評価、機能評価、および多モーダル神経画像データなど、幅広い情報を統合して解析を行います。
本研究では、9つの独立した地理的に多様なデータセットにわたる51,269名の参加者データを用いて、認知症の10種類の異なる病因を特定しました。本モデルは、診断結果を類似の治療戦略と照合することで、データが不完全な場合でも高い予測精度を維持できます。その結果、正常認知、軽度認知障害(MCI)、および認知症の分類において、モデルのマイクロ平均ROC曲線下面積(AUROC)は0.94を達成しました。また、認知症の病因を鑑別する際のマイクロ平均AUROCは0.96となりました。
さらに、本モデルは混合型認知症の症例にも対応でき、2つの共存する病理を識別する際の平均AUROCは0.78を記録しました。無作為に選ばれた100例のサブセットにおいて、本モデルを活用した神経科医の診断精度は、神経科医単独の評価と比較して26.25%向上しました。加えて、本モデルの予測結果はバイオマーカー証拠と一致し、異なるタンパク質異常との関連性が剖検結果を通じて確認されました。


長期介護を受ける高齢者とその関係者による
AI・新技術への見解

高齢者ケアにおけるAI技術の活用について、関係者ごとの優先課題の違いを示した論文です。

Perspectives on AI and Novel Technologies Among Older Adults, Clinicians, Payers, Investors, and Developers

https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.3316

介護

重要性

人工知能(AI)や遠隔センサー、ロボット工学、意思決定支援アルゴリズムといった新しい技術は、高齢者の健康と福祉を向上させる可能性を持っています。しかし、こうした技術革新の過程に関わる主要な関係者たちが何を優先しているのかについては、十分に理解されていません。

目 的

高齢者に対するAIおよび新技術の活用について、関係者(高齢者本人、介護者、臨床医、医療制度・保険者、投資家、技術開発者)がどのような優先事項を持ち、どのような応用を想定しているかを明らかにすること。

研究デザイン・対象・実施環境

本研究は、グラウンデッド・セオリーに基づく質的インタビュー調査です。2023年5月24日から2024年1月24日まで実施されました。ジョンズ・ホプキンス大学の高齢者AI・技術研究コンソーシアム(Collaboratory for Aging Research)を通じて参加者を募りました。対象は以下のとおりです:
60歳以上の高齢者またはその介護者|臨床医(医師や看護師など)|医療制度や保険者のリーダー(ペイヤー)|投資家|テクノロジー開発者|主要アウトカムと評価項目
高齢者とその介護者、臨床医、保険者には「高齢者と介護者が直面する最も重要な課題」を、投資家と技術開発者には「高齢者と技術に関連する最大のビジネス機会」を尋ねました。さらに全参加者に、AIや新技術の活用に関する提案を求めました。また、保険者、投資家、開発者には「エンドユーザー(利用者)との関わり」に関する意見も収集し、開発者を除くすべての参加者には「技術開発に向けた提案」も聴取しました。インタビュー結果は質的テーマ分析により解析され、グループ間の優先事項の重なりの程度が比較されました。

結 果

参加者の内訳は以下のとおりです:
高齢者または介護者:15名(平均年齢71.3歳、範囲65~93歳、男性4名[26.7%])
臨床医:15名(平均年齢50.3歳、範囲33~69歳、男性8名[53.3%])
保険者:8名(平均年齢51.6歳、範囲36~65歳、男性5名[62.5%])
投資家:5名(平均年齢42.4歳、範囲31~56歳、全員男性)
技術開発者:6名(平均年齢42.0歳、範囲27~62歳、全員男性)
各グループ間で優先事項は異なり、高齢者・介護者と臨床医との間で最も共通点が多く、投資家・技術開発者との間では最も共通点が少ないという結果でした。参加者からは、自己管理や社会的つながりを促進するためのリマインダー機能など、新規性のあるAI応用例が提案されました。一方で、高齢者・介護者が最も重視していた“日常生活動作(ADL)支援”に直接関連する提案は少なかったことが注目されます。また、すべての参加者が「エンドユーザーとの関わり(ユーザー・エンゲージメント)」の重要性を認識していましたが、実際には規制上の障壁や、ペイヤー(保険者)の影響力が他のステークホルダーより強いといった課題も報告されました。

結論と意義

本研究は、AIおよび新技術を高齢者ケアに導入するにあたって、関係者間で異なる優先順位が存在することを明らかにしました。公衆衛生政策・規制戦略・アドボカシー(擁護活動)を通じて、こうした優先事項に対する認識を高め、ユーザーの関与を促進し、AIの利活用に向けたインセンティブを整える必要があります。